ぼくに生涯を捧げてきたまゆさん-18

更新日:

十八

大学は夏休みに入り,まゆさんも実家へ帰っていった。

ぼくも久しぶりに実家に帰ることにした。

電車に揺られながら,以前のようにまゆさんを恋しく思わなくなっている自分に気づいた。

始めの頃のように,まゆさんがもの凄く近い距離にいる感じがしないのに,このような気持ちになるのかが理解できなかった。

どちらかといえば,まゆさんはぼくの心の中にどっかりと坐っており,それが気持ちの安定感をもたらしていて,まゆさんの存在をいつも確認しなければ不安になるということがなくなっていたのかも知れなかった。

まゆさんはもう何処へも行くことはない,という確信ではないけれども,それに近いものが芽生えてきているような気がした。

それは,ある種の夫婦関係のようなもので,まわりからみるととてもさらさらしており,若い恋人同士の溢れる熱情は感じられない代わりに,落ち着いている心境のようなものだろうか。

それは,荒れていた大学生活が,まゆさんによって安定していることを示しているのかも知れない。

どう表現していいか分からないが,以前とは少し違う気持ちになりつつある自分を感じていた。

縛られているという感情や,窮屈であるとは一切思わなかった。

むしろ,まゆさんはやきもちを焼かなかったから,ぼくは自由だったと思う。

自分の気持ちが安定しているせいか,実家も心地よかった。

久しぶりに中学時代の親友にも会い,近況を報告しあったりした。

気持ちが荒れていると,何もかもが揺らめいていて安定しない。

若いが故にそのような時のコントロール方法を知らないから,いつまでも揺れは収まらない。

そんな状態で過ごしている時に出逢ったのがまゆさんだった。

まゆさんは,そんな気持ちのぼくを知っていたのかどうかは不明だが,一所懸命愛情を注ぐことによって,その揺れを抑えようとしていてくれたのだろうか。

ぼくの揺れが伝搬して,まゆさんも相当に揺れたのかも知れない。

でも,二人で出かけるようになると,自然に呼吸が合ってきて,気持ちが凪いでいくのがわかった。

燃えるような熱さではなく,どことなく温いものが伝わってくる心地よさとでも言おうか。

そんな心地よさがずっと続いていて,それがぼくの気持ちを捉えて離さなかった。

やっと出逢えた。

そんな気がした。

今までにもつきあった女性はいるが,そのような気持ちになったことはない。

お互いにどこか一人の部分が残っていて,全てをさらけ出しているという感覚は持たなかった。

まゆさんとの時間が大半を占め,自分が裸になっていくとまゆさんもそれに呼応してくるので,お互いに一人の部分がなくなっていく。

まゆさんは飾ることを知らず,ましてや駆け引きなどは論外だったから,ぼくも安心して自分を見せたのだと思う。

それはまゆさんにとって重たいことだったのかも知れないが,いつも真正面からそれを受け止めてくれていたような感じがする。

心を預けると言うが,まゆさんの純粋性がそうさせたのだろう。

やがて,夏休みも終わり,試験休みを利用して二人で出かける計画を立てた。

(ぼくに生涯を捧げてきたまゆさん-19 に続く)

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