ぼくに生涯を捧げてきたまゆさん-17

更新日:

十七

それは,夏休み直前のことだった。

例の如く,まゆさんの同級生の下宿で明け方の五時まで麻雀をして,当時は珍しかった24時間営業のレストランへ三人で行った。

そこは国道沿いにあって,主に長距離輸送の運転手が利用するところだった。

あの頃(70's)は,車を持っている学生はおらず,バイクがせいぜいだった。

同級生二人は,幸いバイクを所有していたので,ぼくは後ろに乗せてもらってレストランへ行った。

お腹も一杯になったところで,同級生の一人が,

「これからどこかへ行こうよ」

と,言うので,

「コインで決めよう」

とぼくが言って,十円玉を空中に投げて手の甲に隠し,

「ウラだったら行く」

と言って被せた手を退けると,ウラだったので何処かへ出かけることになった。

「どこがいい」

「三方五湖はどう?」

同級生が言うと,二人は賛成し,海水パンツと簡単な着替えを取りに戻って,そのまま出発した。

二人とも一睡もせずに運転しているのに,よく事故を起こさなかったものだと思うが,とにかく,美浜町の海岸に到着したのが午前十時過ぎだったと思う。

運転してきた二人は勿論のこと,ぼくも眠かったので,その海岸の石段で仮眠することにした。

二時間ほど眠っただろうか。

昼食を通り沿いの食堂で食べながら行き場所を相談した。

レインボーラインを通って半島(名前は覚えていない)の先まで行こうということになった。

そこに着いたのは午後二時くらいだったと思う。

今日はもう帰れないので,三人で有り金を出し合い,泊まれるところを探すと運良く民宿があり,そこに泊めてもらうことになった。

そこまではよかったのだが,ぼくはその日バイトがあることを思い出し,慌てて寮に電話してまゆさんを呼び出してもらうと,運良く出てくれた。

「いまどこ?」

「福井」

「なんでそんなところにいるの」

「ゆうべ三人で麻雀してそのままここまで来た」

「帰ってくるの?」

「余り寝てないし,民宿があったからそこで泊まるつもり」

「ふうん」

「あのう今日バイトなのを忘れてて,代わりに行って欲しいんだけど」

いきなり電話を切られてしまった。

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<こりゃ相当怒ってるな>

多分朝からぼくの部屋にきたに違いない。

もぬけの殻だったから,時間をあけて来たけれど,所在不明なので心配していたのかも知れない。

そこにあんな電話をしたものだから,怒り心頭に達したのだろう。

ぼくは,まゆさんが行ってくれることに決め込み,三人で遊ぶことにした。

漁師さんが近くの島に案内してくれて,そこで泳いだりした。

夕食の時,ハマチがまるまる一匹舟盛りにされたものが出されたので,三人で顔を見合わせると,誰も頼んだ様子はない。

「あのうこれ頼んでないんですけど」

おそるおそるきくと,

「これはサービスだから」

と,言ってくれたので,胸をなで下ろすと思わず,

「ビール下さい」

と同級生が注文していた。

翌日は,美浜原発の近くの海岸で泳いでから帰った。

妙に海水が温かったことを覚えている。

寮に着いたのは夕方で,まゆさんは不在だった。

その日はまゆさんのバイトの日だったことを思い出した。

まゆさんが部屋に来てくれたので,

「これ」

うつむいてお土産を差し出した。

まゆさんの顔をこわごわ見ると,その顔には笑顔が戻っていた。

「ほんとにごめん」

「何よ心配させといて。あげくのはてにバイトかわれって」

これでは,もうどちらが年上かわからなかった。

今思えば,まゆさんはぼくの我が儘をいつも認めてくれていたような気がする。

ぼくに生涯を捧げてきたまゆさん-18 に続く)

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