智ちゃんは,大学で一年先輩だった。
でも,智ちゃんは現役で入学したから,浪人のぼくとは同い年。
あれは,大学二年の新入生歓迎コンパのことだった。
その日,何故かぼくはしこたま酔ってしまい,気がついたら,四年生のNさん(女性)の下宿にいて,シャツとパンツだけで布団に寝かされていた。
先輩が部屋から出て行くと,そこに智ちゃんが入ってきて,ぼくのパンツを脱がせたと思う。
ぼくには何が起こっているのか理解できなかった。
智ちゃんがぼくの上で何かごそごそやっていたかと思うと,
「入った」
と言った。
でも,ぼくには智ちゃんの中に入った感覚なんてまるでなかった。
学年が違ったから,ぼくは智ちゃんのことをよく知らなかった。
智ちゃんはぼくが好きだったから,先輩に頼んでこんなことをしたのだろうか。
研究室は,四学年合わせて四十名にも満たなかったので,あっという間にぼくと智ちゃんの仲は知れ渡った。
こうして,唐突にぼくと智ちゃんのつきあいは始まった。
不思議なもので,講義が終わって研究室に戻ると,ぼくは自然に智ちゃんの傍に行き,智ちゃんもそうだった。
実験動物のネズミの世話をしていた智ちゃんの当番の夜は,いつも顔を出していた。
ある日のこと,成り行きは分からないが,ぼくの同級生が下宿を提供してくれることになって,智ちゃんと一晩を過ごした。
当たり前のように二人とも裸になり布団に横たわった。
ぼくには,女性とつきあったことはもちろん,そんな経験もないので,女性というものをどう扱っていいのか分からなかった。
すると智ちゃんは,ぼくを仰向けに寝かせ,口で刺激(したと思う)してから,大きくなったのを確かめると,それを智ちゃんの中に入れた(と思う)。
肉体的な刺戟を受けたぼく自身は,智ちゃんの中で動いていたのだろう。
終わると,智ちゃんは体を押しつけてきた。
柔らかい乳房がぼくの脇腹に当たり,その時初めて女性というものを意識した。
その間も,智ちゃんはぼくを刺戟していた。
回復すると,智ちゃんはぼくの上になり,中腰になって自分の中に導いた。
それでも,ぼくは,自分のものが智ちゃんの中に入っているという感覚をもてなかった。
智ちゃんは,ぼくの上で腰を動かし,ぼくは智ちゃんの乳房を鷲づかみにしていた。
ぼくの上で動く智ちゃんの肌は汗ばんでおり,長い髪が肩に張り付いていた。
「痛い」
「余り強くしないで」
その言葉にはっとなって手を引っ込めた。
やがて絶頂を迎え,智ちゃんはぼくの上からおりた。
そのまま二人で眠ってしまい,翌朝,同級生の下宿を出て,大学に行った。
周りは,昨夜のことを知っている雰囲気がした。
ぼくは,智ちゃんが,ぼくを好きだということは分かったが,何故こんなことになるのか理解しかねた。
ぼくにも性的欲望があり,女性に興味がないわけではない。
けれど,こんなことは,お互いの気持ちが一致してするものだと思っていた。
ぼくは,智ちゃんに何の告白もしていないのに,肉体的な交渉が先に始まってしまったことに戸惑いを覚えていた。
智ちゃんは,自分の躰を投げ出せば,ぼくの気を引けるとでも思ったのだろうか。
それとも,それは先輩の助言だったのだろうか。
自分の主導ではなく,まわりがどんどんお膳立てをして,ことが進んでしまっていくことに少し苛立ちを感じ始めていた。
ぼくは,これからどうすればいいのかよく分からなかった。
男にとって,女性が自ら躰を預けてくれるのは,性的欲望を満たす上ではいいことなのだろう。
それでも,ぼくの「心」は,どうしても智ちゃんの方に向いてはいかなかった。
それは,性というものを潜在的に欲していながら,お互いの合意なき状態から始まったせいかも知れない。
智ちゃんは,ぼくを好きだという表現をしたのかも知れないが,この体験は衝撃的で,未経験のぼくには昇華できなかった。
「心の準備」などという蒼くさいことをいうつもりはないが,その過程を踏んで欲しかった。
当然,そんなつき合いは長く続くはずもなく,智ちゃんは泣いていたが,ぼくの方から別れを告げた。
あの時のぼくはまだまだ未熟で,智ちゃんの成熟度についていけなかったのだろう。
ぼくも,智ちゃんの気持ちをもっときけばよかったと思っている。
ごめんね,智ちゃん。
わずかな経験だったけれど,智ちゃんは,ぼくに女性というものを教えてくれたね。
おかげで,ぼくは,女性と少し気楽に話せるようになったよ。
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