忠君は,同級生で,寮の部屋は僕の隣だった。
一年生は,先輩と相部屋になるのが習わしで,僕の部屋の先輩は,端整な顔立ちをしていたが,どこか冷たい感じがした。
余り部屋にいなかったため,僕は,その先輩と余り口を聞いた記憶がない。
忠君は,もじゃもじゃの頭をして,体躯はがっしりとしていた。
また,忠君は,この大学には滅多にいない関東の出身で,豪放磊落な性格のように思えた。
忠君は,一年浪人しており,僕と同い年だった。
毎朝顔を合わせているうちに,何となく親しくなり,僕は暇があったら,忠君の部屋で遊んでいた。
忠君は,風貌に似合わず,都会的な男で,僕のような田舎出身の人間より,色んなことを知っていた。
入学して一カ月位した頃,忠君は,いいところへ案内するから,僕につきあわないかと言ってきた。
僕は,忠君の何となく卑猥な口調が気になったが,つきあうことにした。
忠君は,出かける時,学生証を忘れないように念を押した。
忠君は,僕をどこへ連れて行こうとしているのか分からないまま,学生証を持って出かけた。
電車で三十分ほど走った先の駅に着くと,忠君は,どんどん先に立って歩いた。
僕は,さっぱり訳が分からず,忠君の後を追いかけるので精一杯だった。
着いたところの看板を見ると,何とかミュージックと書かれており,忠君は,慣れた風に受付で学生証を見せ,入場券を受け取っていた。
振り返ると,忠君は,僕を促し,入場券を買うように言った。
中に入ると,円形の舞台があり,青や赤のライトが舞台を照らしていた。
そこにいた客は,僕よりはずっと年上の男性ばかりであった。
やがて,怪しげな音楽が流れ始めると,腰のところまで切れているチャイナドレスのようなものを着た二人の女性が音楽にのって現れた。
二人の女性は,円形の舞台を回りながら,時々足を大きく上にあげた。
すると,その前にいた男達は,大きな声ではやし立てたり,口笛を鳴らしたりしていた。
やがて,僕たちの前に来て踊り始めたかと思うと,足をあげた。
女性は何もはいておらず,下半身が露わになった。
曲がスローテンポになると,女性達は,舞台の端まで来て,中腰になったかと思うと,足を開いて見せた。
年配の男が,顔を股間の中まで埋めるような仕草をして,周りの男達から顰蹙を買っていた。
僕は,胸がどきどきして,横にいる忠君をちらっと見ると,平然とした顔をしていた。
女性が目の前に来て,中腰になり,女性自身に指をあて拡げて見せた。
その時,僕は,初めて女性自身を見たのだった。
僕は,すっかり頭に血が上ってしまい,他の男達がしているように,念入りに見るということなど出来なかった。
女性が変わり,同じ様なことをしていたが,覚えているのは,香水のにおいだけだった。
帰る道中,忠君が,
「どうだった」
と訊くので,僕は,
「香水のにおいしか思い出せない」
と言うと,忠君は,
「始めはそんなもんだよ」
と言って笑った。
僕は,それからというもの,香水をつけている女性とすれ違うと,あの時のことを思い出してしまって,困った。
忠君は,また僕を誘いに来た。
僕は,一瞬断ろうと思ったが,興味もあったので,忠君の誘いにのることにした。
「学生証は要らないから」
と,忠君は言い,
「ちょっと値段が高いよ」
と付け足した。
忠君の言う金額を持って,二人で電車に乗った。
前と同じように,忠君は先に立って歩いた。
着いたのは,同じ様な看板があがっているが,前とは違うところだった。
中に入ると,舞台は同じ様なもので,客も前と同様だった。
前のようなショーが終わると,男が敷き布団を持ってきて,舞台の中央に敷いた。
女性が出てきて,そこに横たわると,マイクを持った男が出てきて,舞台に上がる人はいないか訊いていた。
舞台に迫らんとする勢いで,皆が一斉に手を挙げて,奇声を発していた。
指名された男が,舞台に上がるやいなや,ズボンとパンツを脱ぎ始めた。
僕は,何が始まるのか訳が分からず,ただ唖然としていた。
女性が,男性自身に何かを被せると再び横たわった。
男は,その女性に覆い被さる姿勢で,盛んに腰を振っていた。
僕は,何となくしていることが分かったが,目の前でそれを見せつけられて,少なからずショックを受けた。
帰る途中,忠君は,僕のようすを見てとったのか,何も言わなかった。
夏休みに入って,忠君が,家に招いてくれるというので,彼の帰郷について行くことになった。
忠君は,地元の同級生に電話をいれ,その友人と三人で出かけることになった。
場内は,同じ様な感じだったが,以前と異なり,客の男達は静かだった。
女性が,出てきて,音楽に合わせて踊っていても,周りの男達は黙って見ているだけだった。
すると,踊っていた女性が,突然怒りだし,
「あんたら,みんなすけべで,女のあそこを見に来たんでしょ」
「だったら,もっと騒いで盛り上げなよ」
と,言った。
それでも,男達は,何もする様子がなかったので,その女性は,
「あほらしい,こんなのやっとられんわ」
と,言って舞台から引っ込んでしまった。
僕たちも,これ以上ここにいるのは無駄だと思って,そこを出た。
忠君は,大声で笑いながら,
「こっちは,どこでもこうなんだよ」
「まるでお通夜みたいだ」
と,言った。
こうして,僕の女性探索ツアーは終わったのだった。
ひどいよ,忠君。
僕の女性に対するイメージが変わったじゃないか。
毛がぼうぼうと生えているし,真ん中にある割れ目は何だよ。
僕は,女性が,みんなあんなのを持っていると思うと,近づきたくないよ。
僕は,これからどんな顔をして女性と話せばいいんだよ。
だけど,今までみたいに無用な想像は必要なくなったよ。
後は,実践あるのみだね。
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