自衛隊員は人を殺せるのか

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安全保障関連法は,3月29日で施行から1年。
政府はこの間,自衛隊の南スーダン派遣部隊に「駆け付け警護」の新任務を付与,米艦防護の運用指針も定めるなど,新たな法の規定を着々と実施に移してきた(時事通信)。

日本維新の会の橋下徹法律政策顧問(前大阪市長)は27日,米ワシントンの戦略国際問題研究所(CSIS)の講演で,「日本も米国のために血を流す国にならないと信頼関係は強固にならない」と述べて,将来的に憲法9条の改正にも言及したようだ(時事通信・動画)。

全くよく言うよ。
自分は戦場に行くことがない前提なものだから言える発言だろう。

そもそも,憲法改正を声高に言っているのは,自分が安全圏にいる(戦争を知らない還暦を超えた)人ばかりである。
そこには,万が一でも国のために命を投げ出さなければならない可能性のある青壮年の意見が反映されていない。

人は,自分が安全圏にいる限り,どんな過激な発言でも出来る。
だが,一旦自分も同じ立場に立たされる可能性があるとすればどうだろうか。
戦場に行く覚悟がないと,扇情的な発言はなかなか出来ないだろう。

ハシシタ君は,「日本も米国のために血を流す国」になる必要があると言っているようだが,このようなことはおいそれと発言すべきではないだろう。
それとも,君が最前線に行って「血を流してくれる」のか。
又,どうして自衛隊員が「米国」の為に血を流さなければならないのか。
これでは,「日本が米国の属国である」と積極的に認めているようなものだ。

自衛隊は,かつて紛争地域の最前線で「殺し合い」をやった経験がない。
「訓練」はしているが,「実戦」をやっていない。この点は,諸外国の軍隊と大きな差であると思う。

いくら,「駆けつけ警護」に行こうと,そこで「戦闘」があろうと,実際に人を殺せる部隊にならないと,いくら9条を改正したところで,所詮絵に描いた餅にすぎない。
米軍戦闘機の空中給油や艦隊の護衛だとか一見間接的な行動のことばかり考えていては論点を誤ると思う。

実戦では,米軍が攻撃されたら,自衛隊も反撃しなければならないだろう。
そうなると,「自分たちは人を殺す」行為を自覚しなければならない。
地上戦になれば,直接対峙する相手に向かって発砲しなければならない。

実戦経験のない自衛隊員にそのような「人殺し」が本当に出来るのだろうか(やろうという明確な意志はあるのだろうか)。
私は,前に「家族を戦争に送れますか」と題する記事を書いた。
この記事は,北海道新聞の『「人を殺してほしくない」安保法施行目前,自衛官の家族が相談』という報道に触発されて書いたものである。

この時私が思ったのは,「自衛隊って究極的には人殺しの部隊じゃないの」ということだった。
それを今更,「人殺しにするな」と言われても,あなたが「職業軍人」を選んだ以上,情勢がいかに変化しようとも,「人を殺す」ことが必要になれば,やるしかないだろうということだった。

憲法改正を訴える人達は,何故そのようなことを明確に言わないのか。
言ってしまえば,国民は改正を望まないからだろう。
だから,論点を明確にしないまま,改正の署名集めをするのだ。

地方議会も改憲決議をしているようだが,所詮他人事だからこんな大切なことを簡単に決議してしまう。
安易に改憲に署名する人達も同じことである。

「戦闘するのは自衛隊だから」自分には関係ないのではなく,国家が軍隊を所有することを明確に規定し,それを持って国防することの是非を真剣に議論すべきだ。
これは,一部の熱狂的な改憲論者に任せておいてはいけないことであると思う。

特に,若い人達は,将来「徴兵制」(発言する政治家もいる)がひかれる可能性も考えて行動すべきだろう。
黙っていては,一部の人達によって,あなた方の将来を決められてしまう(それでもいいと思うのなら別であるが)。

何故「徴兵制」の話が出てくるかというと,ここを見てもらえば一目瞭然だが,定員 247,154 名に対して現員は 227,339 名となっており,充足率は 92.0 %で約 50,000 人不足している。

又,任期制・非任期制自衛官の定員は 247,154 名で,現員は 227,339 名,充足率は 92.0 %で約 19,800 人不足しており,双方の合計は 約 70,000 人である。

即ち,いざ戦闘状態になると,徴兵制をひかなければ上記の数を補充できない。
又,除隊してしまう可能性も鑑みれば,それ以上の人数が必要になってしまう。
別の資料では,即応予備自衛官という制度があって,現員は 32,396 名である。
これを加えても,まだ 約 37,000 名不足となる。
だから,私は「他人事ではない」と述べているのである。

軍隊は「人を殺す」ことをしなければならないが,それを持たなければ,我々国民も殺されてしまう可能性を排除できない,と明確にした上で,改憲を論じるべきだろう。
曰く,

「イラク戦争で,日本は多額の拠出をしたのに,クウェートがニューヨーク・タイムズに出した感謝の広告には名前はなかった」から恥ずかしい思いをした(参考1)。
だから憲法を改正して,自衛隊を「国軍」と規定し,派兵出来るようにしなければならない。

一体何を言っているのだと思う。
恥ずかしいと思った国民は何割くらいいるのか。

一部の老人の思いで,若い人達を巻き込まないで欲しい。
平均余命20年あるかなしかの人間が,若い人達の将来を勝手に決めていいとは思えない。

今年に入って北朝鮮の情勢は緊迫しているのは認める。
しかし,標的は「在日米軍」であって日本ではない。

重ねて言うが,改憲を声高に叫ぶ人達は,「米軍を守る」ために自衛隊を使おうとしている。
これでは,日本はいつまでたっても自主独立出来ない。
「国軍」は,日本国民を守るためであって,米軍の支援部隊ではないだろう。

「国軍」には,もう一つ大切な役割がある。
それは,日本国内を鎮圧する手段としての軍である。

日本会議の「新憲法の大綱」には,内乱・大規模災害等の非常事態が生じた場合,内閣は「非常事態宣言」(戒厳令)を発することができ,非常事態においては,国軍の出動を命じるとある。

非常事態においては,戒厳令をひき,国軍がその鎮圧に当たるのである。
最近の例では,フランスでパリ同時多発テロが発生した時,オランド大統領は,戒厳令を宣言し,軍が出動している。

最早,自衛隊は災害救助援助隊ではなく(その役割は残るだろうが),我々に銃を向ける軍隊となることを承知しなければならない。
最悪の場合,自衛隊員は,自国民を「殺さねばならない」事態もあり得る覚悟が必要である。

改憲を主張する人達は,以上の論点を明確にした上で,国民に是非を問うべきではないのか。
そして,実際に武器を使用することは,新たな敵を作ってしまうことになるということも明確にしなければならないだろう。

(参考)
(1)YouTube:日本会議会長・田久保忠衛氏記者会見 2016-7-13
(2)朝日新聞:自衛官の子持つ父,「違憲」訴え続ける 安保法施行控え
(3)LITERA:佐藤浩市がテレビの右傾化に危機感表明

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