あなたは,夜間の巡視の際,ある病室の患者さんの不在に気づきました。
トイレかも知れないと思い,一旦その場を離れましたが,再度訪室しても姿がありません。
やがて,外で奇妙な音がしたので,外に出てみると,不在であった患者さんが亡くなっていました。
どうやら,病院の屋上から飛び降り自殺したようです。
さて,あなたはこの場合どのような行動を取るべきでしょうか。
他の当直者とともにご遺体を近くの処置室まで運び,当直医に死亡確認をしてもらいます。
真夜中の出来事なので家族への連絡はどうすればいいのか。
直ぐに連絡すべきなのか,早朝まで待つべきか。
申し送りの時は,当該患者さんの様子には変わりがなかったと聞いていたのに,余りに突然のことなので途方に暮れてしまいます。
ただ,病名は肺癌の末期だったので,先行きに不安を抱いたあげくの自殺だったかも知れないという推測は出来ます。
この辺を家族が理解してくれているならば,即座に連絡すべきでしょう。
しかし,その前に連絡すべきところがあります。
それは「警察」です。
このように患者さんが罹患している病気が原因ではない「死」の場合は警察に連絡し,「検視」を行ってもらう必要があります。
それは,死亡の原因が犯罪に起因するものであるか否かを判定するものです。
病院側としては,死亡原因が自殺によるものと明らかなのですが,客観的には,誰かに屋上に呼び出されて突き落とされた可能性も否定できません。
検視によって,犯罪性がないことを確認してもらう必要があります。
ここで犯罪性がないことを警察が認めてくれれば,家族に連絡することも可能になります。
このようなことは滅多に起こることではありませんが,夜間の勤務者の少ない時に起こった場合は,一刻も早く「警察」連絡することが肝要です。
本来的には,このような自殺という大層なものだけではなく,病気を直接原因としない死亡を考えておくべきなのですが,現実は異なるようです。
警察が関与すると事態が大きくなるかも知れないという懸念から,隠蔽とはいかないまでも矮小化してしまう傾向は否めないように思えます。
患者さんのご家族が警察に行かれて,「不審死」が発覚するケースもあります。
こうなった場合,ご家族は病院に懐疑的になられていますので,事態はますますこじれていきます。
警察もご家族の味方をしますから,病院に対して疑念を持った対応をされますので,多少面倒な手続きが必要でも,日頃から警察にはきちんと届ける習慣をつけておくことが肝要です。
この辺のところは,病院のトップの姿勢に関わってきますので,職員さんにはいかんともしがたいのですが,少なくとも医療従事者としての倫理性を失わないようにしたいものです。