電子カルテで医師は患者さんの顔を見なくなった

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私が勤務していた病院は,全面移転を機に電子カルテを導入しました。

費用は,約6,000万円だったと記憶しています。
勿論,リースです。

導入前に,業者さんと医療スタッフがカスタマイズについてかなりの時間を割いて協議しました。
その過程と導入後について感じたことを書いてみたいと思います。

人間が使うものですから,当然使い易くカスタマイズするわけですが,カルテに記録する定型文を多く作ることによって,入力の手間を省こうとすると,患者さんそれぞれの症状を記載しなくなる傾向が増えてきます。

実際,導入後のカルテの記載は,ほぼ似たような記述のオンパレードで,人間の診察記録ではなくなってしまった感じがします。

当院では,医師のみならず看護師の看護記録,ケースワーカーの記録も電子化しましたので,医師を始めとするスタッフが相互に参照しやすくなったメリットはあるのですが,却って入力に時間がかかってしまっている実情もあります。

紙に書くのであれば,いちいち漢字変換も必要ありませんので,自分の思考が即座に反映できます(脳内で漢字変換しているといってもよい)。
空白に書く字数も決まってきますから,どうしても情報を纏めなければならなくなります。
そうすることによって,大切な情報をおとしてしまうのではないか。

又,電子カルテは筆跡が残りませんから,極端にいえば,IDとパスワードさえ分かっていれば誰でも書くことが出来ます。
私は,ここに問題があると考えています。

つまり,本来医師が書くべきカルテを他の者が入力することが出来ます。
確かに,メディカル・クラークがいて,そのようなことを行っているところもありますが,それも限度があります。

医師が忙しいという理由によって,医療スタッフにそれを押しつけるのは本末転倒と言えます。
電子化することにより,外部からはその事実が見えませんから始末が悪い。

そして,何よりも問題だと感じるのが,診察中に医師が患者さんの顔を見て話を聞く傾向が少なくなったことです。
どうしても入力に意識が集中してしまい,患者さんの言葉をまともに聞いていない状況に陥ってしまっていないかと思います。

このように一見便利になったと思われることが,「診察」という行為を形骸化させていくことに対しては危惧せざるを得ません。
又,代理入力が横行すれば,問題が発生した時の責任の所在が不透明になってきます。

最後に,「医師が承認する」ので問題はないと言えるのでしょうか。

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