医師は,患者や家族に病状や薬の説明を充分しているか

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医師には,インフォームド・コンセントの義務があります。
インフォームド・コンセントというのは,「説明」と「同意」という意味です。
患者さんに,症状を説明し治療方針を伝え,それに同意してもらう。

しかし,現実は,
1.病気のことを言ってもどうせ理解できない
2.多数の患者さんを診察しなければいけないので,そんな時間がない
3.治療は,黙って医師に任せておけばよい
というような理由から,明確な説明はなされてきませんでした。
おまけに,説明を求めると,自分を信用できないのかと怒り出す医師もいます。

毎日新聞の記事にあるように,そもそも医師はコミュニケーションの訓練を受けていません。
そんな医師の姿勢が患者さんの病状を左右することもあるとはつゆ考えない。

病状の心理的側面は二の次だったのです。
外科系の医師であれば,まだいいのですが,同紙にもあるように,内科系の医師はその行う治療を十分に説明する必要があります。

私の母は肺がんで亡くなりましたが,病院で検査してくださった女医さんがとてもいい方でした。

彼女は,私に,
「行える治療は抗がん剤しかありません」
「しかし,それをやると足の不自由なお母様は寝たきりになってしまうでしょう」
「悲しいことかもしれませんが,抗がん剤治療で苦しまれるよりも,自宅で最後まで生活される方がよいのではないかと思います」
「もし,自宅で過ごされるのならば,告知も必要ないと思いますから,私の方でそれなりの説明をさせてもらいます」
と話してくださいました。

私は,母が抗がん剤治療で寝たきりになってしまうのは耐えられませんでしたので,自宅療養の道を選択しました。
ただ,近くの診療所の医師には母の病状を伝えるとともに,夜間の往診をお願いしなければならないこともありえるということを了解してもらいました。

勿論,私も家内も仕事を休むわけにはいきませんでしたので,今思えば随分酷なことをしたのかもしれないと思います。
しかし,毎日3人の娘たちが学校から元気に帰ってきて,
「おばあちゃん」
と言ってあげることの方が,ずっと幸せではないかと思いました。

自宅療養中,職場に無理を言って,1週間休ませてもらって母と過ごしました。
母は,薄々ガンだと気づいていたようですが,私にそのことを追求することはありませんでした。

母は,診断を受けてから6ヶ月後に自宅で亡くなりました。
私は仕事で遅くなってしまい,最期を看取ってやれませんでしたが,家内と娘たちが看取ってくれました。

改めて母の死を振り返ってみた時,あの時,女医さんは実に辛いことを言わねばならなかっただろうと思います。
しかし,彼女の言葉には,自分の肉親でもそうするという言外の意味が滲んでいました。

肺がんなので抗がん剤治療を行うという説明が一般的でしょう。
しかし,彼女は母の最後の時間の意味を十分考慮した上で,上記のような提案をしてくださったのだと私は思っています。
私は,自分のことのように説明してくださった女医さんに感謝しています。

このようにどんな医師に出会うのかも,大切な治療の一環であると思うのですが,医師自身はそれほど考えているわけではありません。
何故ならば,医師や看護師は「死」というものに慣れていくにつれ,患者さんの「死」にそれほど感情を呼び覚まされなくなってきます。

確かに,多くの患者さんに対応しなければなりませんから,「私だけを診てほしい」というのは我が儘かもしれません。
でも,家族にとっては,唯一の存在に違いありません。
そこをどう考えて,相手に対するかによって姿勢は大きく異なってくると思います。

生命を軽んじているとはいいませんが,反面,「心」を軽んじているかもしれないという自戒はもって欲しいものです。
医は仁術である,とまではいいませんが,少なくとも「命」の重さを常に意識した上で,患者さんと向き合ってほしいと思います。

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