残業月100時間未満だと過労死しないのか【電通過労自殺問題】

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2015 年4月電通に入社した高橋さんが,同年 12 月 25 日自殺し,その原因が長時間の過重労働にあったとして労災が認定されました(朝日新聞)。

現在の法定労働時間は週40時間と定められているが,その労働時間の変遷をみてみます。
厚労省の労働時間制度の変遷をまとめた表が Fig.1 です。
Fig.1

法定労働時間の変遷

これをみると,週 48 時間→46 時間→44 時間→40 時間となっており,週 40 時間が完全実施されたのは 1997 年(平成9年)からです。
労働時間が週 40 時間を実現するには,厚労省によれば,

(1)1日8時間,完全週休2日制とする(8時間×5日= 40 時間)方法
(2)各日の所定労働時間を短縮する方法
【例えば月~金7時間,土5時間(7時間×5日+5時間= 40 時間)】
(3)1ヵ月又は1年単位の変形労働時間制などにより,週平均 40 時間とする方法

があります。
詳細はここを参照して頂くとして,ここでは便宜上(1)の完全週休2日制を例にとって考えてみたい。

ちなみに,完全週休2日制というのは,1年(52週)のどの週をとっても 40 時間以下ということです。
又,職場の方針として「土・日のみ」を休み(公休)と就業規則に規定している場合(祝日は休みと規定されていない),その週に祝日が含まれていても勤務しなければなりません。
労働基準法では,祝日は「公休」ではないので,法律的には,会社側は就労させてもかまいません。

さて,今年(2017年)の6月をみてみると,労働日数は 22 日で,100 時間÷ 22 日≒ 4.55 時間=4時間 33 分となります。
勤務時間を 9:00 ~ 18:00(休憩1時間・8時間労働)とすると,22 時 32 分までは違法とはなりません。
22 時といえば午後 10 時です。

午後 10 時 30 分まで勤務し,帰宅に要する時間を1時間とすると,帰宅するのは午後 11 時 30 分を過ぎてしまうでしょう。
それから食事・入浴(約2時間)すると,就寝は午前1時 30 分になってしまいます。
翌日は,午前7時に起床するとすれば,睡眠時間は約5時間 30 分です。

これをどう考えればよいか。

月~金(曜日)までは,自宅と職場の往復だけで何も出来ません。
若い時は,約5時間 30 分睡眠時間を確保できれば充分だと思います。
又,土・日の休みで体力も回復するでしょう。

但し,それは心身共に健康な時であって,仕事が行き詰まってきたりして,精神的に追い込まれてくるとそうはいきません。
先ず,仕事のことが頭から離れなくなり,睡眠時間が短くなったり,浅くなってしまいます。
私も,新規プロジェクトの佳境の時は,毎日3時間すると目覚めてしまい,暫く眠れないので,睡眠時間は4時間を切ってしまった日々がありました。

就労時間は過ぎているのだが,緊張が取れません。
悪くすると,全く眠った感覚のない日もありました(目をふさいだと思ったらすぐ朝になっていたという感覚)。
焦燥感のため,土・日も自宅で仕事をする時もありました。

兎に角落ち着かない。
私がこの様な状態になったのは,勤続 15 年以上過ぎてからだったので,まだ何とかその時はしのげましたが,ましてや,新人は,仕事のストレスを逃がすコツは元より,仕事そのものも経験不足です。
そんな若い人に圧力を加えていけばどうなってしまうかは自明の理であると思います。

全ての人が必ずしもプレッシャーに強いわけではありません。
叱って伸びる人もいれば,褒めて伸びる人もいます。
上司の方はその見極めが出来ていたかどうか。

上司が犯す間違いは,「自分も出来たのだから」という思いで,自分が鍛えられてきたことをそのまま部下に適用してしまうことです。
上司にしてみれば,何とか部下を伸ばしてやりたいと思ってのことかも知れません。
しかし,自分=相手ではありません。

又,すこぶる健康な人が,病弱な人の苦しみをなかなか理解できないように,精神的に追い込まれた経験の少ない人は,その苦しみを推し量るのは困難でしょう。
冒頭の朝日の記事にあるように,「死にたい」などのメッセージを同僚・友人らに送っていたらしいので,そうとう追い込まれていたと思うし,恐らく「抑鬱状態」になってしまっていたのでしょう。
真面目な人ほど鬱病の発症リスクが高く,衝動的に自殺してしまう場合が少なくありません。

この事件は単なる残業時間の問題ではなく,職場のメンタルヘルスをいかに考えるかということにあります。
かといって,何も上司に甘やかせと言っているのではありません。

人は,少なくとも対人関係が良ければ,少々仕事がきつくても頑張りがきくものです。
その意味では,上司は,仕事がいくら忙しくても,職場環境に気を配ることが大切な職務になると思います。
又,出来る上司ほど,自分と同じように出来ないことに対してストレスを感じ,部下に当たってしまう傾向も見受けられるので注意が必要です。

私が就職した頃は週 48 時間でした(週6日勤務の1日8時間労働)。
残業は,毎日2時間程度だったと記憶しています。

先の例を取ると,6月の労働日数は 26 日で,総労働時間は(8時間+2時間(残業))×26 日= 260 時間となります。
一方は,(8時間+4.55 時間(残業))×22 日= 276.1 時間となり,私の若い頃より労働時間が長い。
私の職場が平均的だったとは思いませんが,週当たりの労働時間が短くなったことが,欧米の労働時間に近づいた(待遇改善)とするのは錯覚ではないかと思わせてしまいます。

安倍政権も「働き方改革」の旗印を挙げるのはよいが,「数」に捕らわれるのではなく,「質」をどう担保するか考えて欲しい。

そもそも,現代の日本の職場は,「働きがい」のあるものになっているのでしょうか。

(参考)
(1)厚労省:労働時間制度の変遷
(2)厚労省:週40時間労働制の実現
(3)厚労省:第1章 過労死等の現状 - 厚生労働省(PDF)
(4)厚労省:平成27年度「過労死等の労災補償状況」を公表
(5)厚労省:5分でできる職場のストレスセルフチェック
(6)厚労省:実施マニュアル(PDF)
(7)朝日新聞:残業上限「月100時間未満」首相が「裁定」
(8)日本経済新聞:「残業100時間、納得できぬ」電通社員の母が政府計画批判
(6)産経新聞:残業の上限規制100時間はどう評価すべきか
(7)産経新聞:幹部ら追加処分へ 捜査待たず公表も 複数の休職者も判明
(8)産経新聞:電通再発防止策のポイント
(9)産経新聞:高橋まつりさん母コメント全文

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