I am a Cat.
名前は,ニャン太という。
この家にやってきて,早くも2年が経過した。
主人はとても変わり者で,毎日何もせずだらだらと過ごしている。
その為,我が輩は主人の生活習慣が乱れないように,毎朝5時に寝室の前で大声で泣くことにしている。
すると,主人は眠そうな顔をして出てくる。
それから主人と散歩に出かける。
最近は暖かくなったからいいものの,真冬は大変だった。
家の中でも寒いのに,零下の中を散歩するのである。
犬は喜ぶかも知れないが,ネコはこたつが恋しいのである。
そんな中を,主人の健康のためにつき合う我が輩の苦労に同情して欲しい。
主人は,面倒くさいのか散歩も5分くらいしかしない。
これでは何のために我が輩が苦労しているか分からない。
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散歩が終わると,我が輩の朝食の準備をしてくれる。
キャットフードはこの家に来てから全く変化がない。
そろそろ食べ飽きているのに,コストパフォーマンスがいいのかこればかりである。
人間も色んなものを食べるのだから,たまには「モンプチセレクション」も食わせろよと思う。
そうはいっても,我が輩も食べなければ生きていけないので我慢しているが,ある時,腹が立ったのでハンストをやったら,「にぼし」を買ってきた。
仕方ないので,食べてやることにすると,またそればかりを買ってくる。
もうちょっと大事にしろよと思う。
寒い時はこたつに潜り込むと,主人が足で我が輩の安眠を妨害しにくる。
ネコは,文字通り「寝子」であることを知らないのか。
うるさいので噛んでやると,「イタイ,イタイ」と言って我が輩を蹴る。
仕掛けたのは主人なのに蹴るとは卑怯じゃないか。
こたつの中で戦争していると,その音を聞きつけて,
「何やってんのあんたたち」
お母さんである。
お母さんは,我が輩に余り近寄ってこないが,傍を通ると頭を撫でてくれる。
ある日の日曜日,みんなで昼食をとっている時,お母さんのおにぎりを少し食べたことがある。
怒られるかなと思ったが,「しょうないな」と言って残りを食べてくれた。
だから,我が輩はこんな優しいお母さんが大好きである。
それにしても主人である。
我が輩がこれほど気を使って,健康に注意してやっているのに,何の感謝もない。
寧ろ,我が輩が傍にいても平気でタバコを吸う。
我が輩が肺がんになったらどうしてくれる。
もし,我が輩が肺がんで死んだら,極めて珍しい症例になり,「受動喫煙の危険性」が明確に証明されるかも知れない。
文字通り動物実験となる。
ちょっと待って欲しい。
我が輩は実験動物ではないはずだ。
にもかかわらず,主人は実験しようとしているのか。
こうなったら,主人が早いか我が輩が早いかの競争だ。
年齢的には,我が輩の方がはるかに若いので,我が輩は主人を見送ってやらなければならないことになる。
こんな主人に出会った我が輩は不幸だろうか。
我が輩がこんな状況にも適応できるのは,我が輩の生い立ちに関連がある。
我が輩は母ネコと一緒に路上に捨てられた。
小さかった我が輩は,その危険性も知らず,車の往来が激しい路上に歩き出した時,向こうから車が来てひかれそうになった。
その時,お母さんが身をもって助けてくれた。
いくらお母さんを動かしてもびくともしなかった。
車はそのまま走りすぎ,一人ぼっちになった我が輩は,お腹を空かせてさまよっていた。
もう駄目だと思って,歩道に倒れ込んでいた時,ボランティアの人が保護してくれた。
里親を募集し,そこに応募してきたのが主人であった。
主人の家へ行く道中,どんどん家が少なくなってくるので,いったいどこへ行くのだろうかと不安になった。
もしかして,山中に捨てられ,野生化するしかないのかとさえ思った。
家に入り,ケージから出ると,主人がいた。
我が輩は,主人が寄ってくるのを避けながら観察していた。
我が輩が嫌がるそぶりをしなかったので,ボランティアの人と主人の話し合いの結果,ひきとられることになった。
ボランティアの人が帰ってしまって,一人になると,主人が近寄ろうとするが,我が輩が避けるので,主人はそのままどこかへ行ってしまった。
キャットフードを持って戻ってくると,部屋に置いたまま出て行った。
お腹が空いていたので全部食べた。
その夜は,一人ぼっちでなかなか寝つけなかった。
時々見に来てくれていたが,黙ってそのまま出て行った。
翌日,主人が来たので,様子を観察していると,案外優しそうであった。
少しずつ慣れてきて,主人や家族が優しいことが分かってきた。
我が輩にとっては,幼少期の不安から解消され,やっと安住の地をみつけた感じがした。
ところが,これが大きな間違いだった。
先にもあるように,いつの間にか,我が輩が主人の面倒を見ることになってしまった。
ふと主人を見ると,こたつでうたた寝している。
お母さんは働きに出ているのに,何ということだろう。
しかし,よく考えてみると,主人まで働きに行ってしまうと,日中は我が輩だけになるので,それはまずい。
主人も精一杯働いてきたらしいから許してやることにするか。
それにしても,お母さんは,ぐうたらな扶養家族を抱えて,文句も言わないで働いているのはえらいと思う。
まぁ,こんな苦労はしても,ご飯はきちんと食べられるし,周りは静かで,車も殆ど通らないから,気ままに散歩している。
時々,近所のおばさんが通りかかるが,我が輩に近づいてきて撫でてくれる。
仕方がないから,変な主人とつき合うのが自分の運命と考えることにする。
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