私は病院に就職した約30年前は,職員数が100名余りでこじんまりとした家族的な雰囲気でした。
5年後には病院に隣接して老人介護施設を開設することによって,職員数も一挙に150名近くになり,職場が病院と施設に分離することによって,職員同士の交流も限定的なものとなり,病院と施設を行き来するのは管理部門を主とした職員だけになっていきました。
こうなってくると,現場の職員さんでも,病院の方は施設の職員さんをよく知らない(逆も同じ)という事態が生じてきます。
そして,病院から約40分の距離のところに新たな介護施設を開設しますと,そこに勤務される方は,同じ法人内の職員でありながら,意識としては勤務する施設にしか興味がなくなってしまいます。
広域に事業を展開するのは悪くないのですが,職員さんが分断されてしまい,交流も全くといっていいほどありません。
法人では,年末の忘年会で法人全体の職員さんに集合をかけるのですが,お互いに顔を知りませんから,どこかよそよそしい雰囲気が漂ってしまいます。
約5年前に田舎の病院を都市部に移転し,同時に新たな介護施設を開設し,最終的には1病院,3施設を経営する法人となりました。
職員数も約550名に達し,職員は分散してしまっているので,益々交流はありません。
法人の会議があって,そこに出席する幹部だけがお互いに見知っているという状況になっています。
私は,それぞれの新規開設に携わり,求人も行ってきましたので,大体のことは分かっていましたが,各施設の幹部に運営を任し始めると,全くその姿が見えなくなってしまいました。
私でさえそうなのですから,ある意味での「現地採用」の職員さんにとっては,他の職場に興味も湧くはずがなく,ましてや法人組織を理解するのも困難になってきます。
このような状態になると,広域の人事異動も困難になり,どうしても限局的に行わざるを得ません。
昔の家族的な雰囲気が懐かしいとは思いませんが,組織が急激に肥大化し,人間が分断された中では,どうしても人間関係が希薄になっていき,身近な人物にしか興味がなくなるのはやむを得ないことなのでしょうか。
おまけに,都市部では職員さんの流動性(離職率)が高く,それが原因となって,「人」というものに淡泊になりがちなところが見受けられます。
しかし,医療や介護は「人」が行うものですから,職員さん同士の密度を高める工夫をしないと,いい人材が来なくなってしまい,その結果,殺伐とした職場になり,やがて大きな事故を引き起こしてしまいかねないかと危惧します。
法人としての急激な事業拡大は,トップ(理事長)にも職員さんへの愛着を失わせることになり,それが職場の質の低下を招くような気がします。
この様に考えていくと,大きいことは必ずしもいいことではないと思えてきます。