23日の証人喚問で,政治家や昭恵夫人の関与が問題となり,以前明らかにされないままくすぶっています。
特に,夫人付きの谷氏のファックスが大きな波紋を呼んでいます。
官僚にとっては,(安倍首相≒)昭恵夫人≒谷氏という構図が透けて見えるが為に,どうしても忖度してしまうのではないかと思えます。
しかし,ここでは余り語られることのない「内閣人事局」に注目してみたい。
内閣人事局は,内閣官房に置かれる内部部局の一つで,2014年(平成26年)5月30日に設置されました。
私は,これこそが,官僚が自己防衛するために「忖度せざるを得ない」理由だと思います。
これを見て頂くと一目瞭然であることが理解できます。
即ち,官僚の幹部職員600名の人事を総理と官房長官が握ってしまっています。
例えば,あなたの勤務先に人事部長がいるとします。
(社長の委任を受けた)その部長が課長以下の人事の全てを握っているとしたら,誰も人事部長に面と向かって反旗を翻さなくなるでしょう。
もし,翻すとすれば左遷や悪くすれば降格などを覚悟せねばなりません。
働く人間にとって,人事権を掌握されているということは,ある種生殺与奪の権利を相手に握られているに等しいでしょう。
その様な組織では,公平な人事が行われるとは到底思えないし,いくらでも恣意的な人事を行えます。
私も現役の時は,人事の采配を振るえる立場にあったが,心かげたことは,出来るだけ衆目の一致する人事を行うということでした。
換言すれば,周りが「あの人だったら妥当だ」と思える人事を考えます。
特に昇進人事は細心の注意を払いました。
公平を期するために考えていたことは,自分に対して堂々と正論を吐いてくる人物を排除しないということ。
職場のことを考えるという視点は共通しているから,私にとって,その様な人物と議論するのは楽しかった(これも自己アピールかも知れませんが)。
小さな組織ながら20年以上人事を行ってきましたが,これほど難しいことはないというのが正直な感想です。
これまでは,各省庁で人事を行ってきたのが,ある日突然それを奪われてしまったらどうだろう。
そこから生じる人間の行動は以下のようではないでしょうか。
1.首相や官房長官にすり寄っていく(職務の優先順位を官邸サイド寄りにする)
2.出世を諦め,淡々と職務に専念する(あくまで中立の立場を守る努力をする)
3.退官する
小さな頃から塾に通い,一所懸命受験勉強して東大に入学し,国家公務員一種試験に合格し,憧れの省庁に入省して頑張ろうと思った矢先,自分の将来は,たった二人(総理・官房長官)の手の中にあります。
勿論,現在の首相や官房長官が30年近くも存在しているわけではありません。
しかし,この仕組みが続く以上,風向きによっては,いつ自分が左遷や降格されるか分からないのは,ある種の恐怖だろうと思います。
極端に言えば,いくら職務能力が優れていても関係ないのです。
官僚組織内をいかに巧みに泳ぐか,若しくは首相や官房長官とのコネクションに頼るかということになりかねません。
どんな些細なことでも逆鱗に触れてしまえば,そこでご臨終となる可能性が高いのです。
このような集団が天下国家のために職務を果たしてくれるでしょうか。
いくら政府の方針がおかしいと思っても,身を挺してまでそれを止めさせる(具申する)だけの勇気はなかなか持てないでしょう。
逆に,弱者に対して,その腹いせを向けてくる場合もあるでしょう。
悪いけれど,安倍首相は無理でも昭恵夫人に近寄ろうとする輩が減らないのは,この仕組みを知っているからかも知れないのです。
その様な人間の機微を知らない昭恵夫人はいつまでも足をすくわれてしまう事態を免れないのです。
この様な構図に鑑みれば,「安倍案件」だからこそ,官僚にしては一見「無謀」とも思えることさえやってしまうのでしょう。
これが,同じ議員であっても,そこまでの職務権限を持っていなければ,官僚はここまで無理をしなかったと思います。
従って,忖度の主因は,内閣人事局という強力な権力に屈した官僚の行動であると言えるのではないか。
一方で,安倍首相があれほど頑なに自らの影響を否定するのは,国民にこの仕組みを悟られまいとする防衛姿勢と言えるかも知れません。
(参考)
(1)アゴラ:内閣人事局という「静かな革命」
(2)杉江義浩 OFFICIAL:日本の官僚は「内閣人事局」で骨抜きにされた
(3)産経新聞:内閣人事局が初めて練る官僚人事
(4)日刊ゲンダイ:証拠FAXに官邸激怒 元夫人付の谷査恵子氏“国外追放”情報