私は,年末年始が近づくとちょっとブルーな気分になります。
やっと長期の休みに入るのにどうしてかと思われるかも知れませんが,この時期になると,ある看護師さん(T さんとします)が必ず私のところにやってきて,耳元で,
「年末年始手当あげて下さいよ」
と囁いて通り過ぎるのです。
T さんは怖い顔で囁くわけではありません。
寧ろ,にこやかな顔でそっと囁かれるので,それが怖い。
T さんは,看護学生の頃ちょっとしたトラブルを起こし。あわや退学になるというところを私が救って以来の縁で,私に気軽に話しかけてくれるうちの一人なのですが,反面,全く遠慮がありません。
確かに,T さんのいうとおり近隣の病院に比べて安いのは事実と思います。
かといって,簡単に上げることは難しい。
病院単体の経営ならば,まだ考えようはあるのですが,介護施設の方はどうするのか。
ある一つのことを変えたり,導入するには原則として法人の全部門が対象になってきます。
年末年始手当を病棟だけ上げるとすれば,他の部門の職員さんに合理的な説明がなければ納得が得られません。
又,どれだけの費用が必要になるのか。
例えば,現行の年末年始手当は,1日につき5,000円とします。年末年始休暇は,12/30~1/3までの5日間。
法人全体で1日あたり勤務する職員さんの数を仮に200名とすると,その費用は,5,000円×200名=1,000,000円。
1日につき8,000円にした場合,8,000円×200名=1,600,000円となり,600,000円の増加です。
5日間では,600,000円×5日=3,000,000円の増加となります。
言い方は悪いですが,「たった5日」で3,000,000円も必要になる。
余程の太っ腹の経営者(理事長)でなければ,「値上げしてあげなさい」ということにはならない。
そこで,私としては,少しでも法人の出費を抑制するための手段を考えることにします。
ここからは,それが正しいとかではなく,法人がどう「定義づける」のかの問題になります。
私が考えたのは,病棟や入所者のいる療養棟は他部門と異なり,常に患者さんや入所者さんがおられることで,厳密な意味での「日直体制」はとれない。
とするならば,値上げは病棟と療養棟に勤務する職員さんだけでよいのではないか。
200名のうち他部門の勤務者が法人全体で20名とすれば,その分抑制が可能となる。
即ち,(8,000円-5,000円)×20名×5日=300,000円。
300,000円を抑制した結果を経営者(理事長)はどう判断するかの問題になります。
このように,T さんの一言は,本人の意識とは裏腹に大きな重みを持っています。
それだけに,私も安易に頷くわけにもいかず,苦笑いをするしかなかったのです。