「うつ病」はどうしてこんなに増えたのでしょうか

更新日:

これから書こうとすることは,医師を始めとする医療技術者やうつの治療を受けている人や罹患した人にとっては,とても信じられないことで,読むに耐えないことかも知れません。
また,よくある陰謀論で片付けられる可能性もあります。

しかし,個々の事実を積み上げ,ピースを合わせると違う世界が見えてくる場合があります。
ペルーのナスカの地上絵も最初は,地上から見る限りは何本かの線としか考えられていませんでした。
飛行機が発明され,人間が空を飛べるようになったとき,それが様々な動物の絵であることが初めて分かったのです。

ナスカ地上絵

私が医療機関に就職したのは,今でいうところの「臨床心理技術者」としてでした。
当時(80's 初め)は,その職種は先進的な病院にしかおらず,私はさしずめその草分けであったかも知れません。

その関係で,院長が,週一回大学の精神科医局へ二年間専攻生として通わせてくれ,臨床心理を学ばせてくれました。
DSMに触れたのも医局が患者さんの診断基準に使用していたからでした。
結局は,私はものにならず,別の方向にコンバートされたが,この経験は極めて貴重なものでした。

当時は,重篤な精神病の患者さんが多く,うつ病も同様だったと記憶しています。
ところが,ある時点から急速にうつ病の患者さんが増え始めました。

社会的な構造の変化はあるかも知れないが,人間はそれに対応できないほど脆弱な存在ではないと思っています。
「こころの風邪」というキャッチフレーズで,うつ病は誰でも罹る可能性のある病として,急激に私達の身近なものになりました。

それはそれで何も問題はありません。
しかし,世の中の仕組みというものは,その全てが必ずしも「善」の方向に向かっているとは限らないと私は思います。
何か見えざる手が,社会をその方向に持っていこうとしていたらどうか。

注意深く観察していると,社会の中に突然現れてくるものがあります。
それは,いつの間にか私達の傍にいるため,多くの人はそれに気づくことはありません。

Crazy Like US(クレイジー・ライク・アメリカ)という一冊の本があります。
紀伊國屋書店から出版されており,奥付を見ると2013年7月19日となっています。
原著は2010年ですから,三年後に翻訳されて出版されたことになります。

私は,この本を読んで,自分が長年在籍した医療業界の内幕というべきものを初めて垣間見たような気がして,虚しいというか悲しい思いがしました。
医療という人間を扱う最も倫理的であるべき分野に商業主義が台頭してきたら何が起こるのかを示しているような気がしました。

この本の第四章「メガマーケット化する日本のうつ病」に,製薬会社がどのようにして日本にうつ病を広げようとしたかが書かれています。
勿論,医療技術者は患者さんを一所懸命治療しようと日夜努力しており,患者さん自身も同じです。
しかし,自社の売り上げを伸ばすためにその趨勢を作り出す動きがあるとすれば,それは一体に何をもたらすのか。

うつ病が急激に増加した分析は,「なぜ、うつ病は増えたのか」に詳しいので,そこを参考にして頂きたいが,1999年を境にして抗うつ剤の売り上げが増加しています。
上述の書籍はそれを見事に分析しています。

時々,テレビのルポとして,多量に投薬された患者さんのぼろぼろになった姿が出てきます。
ご本人はお気の毒というしかないが,従来は人が陥る単なる気分変動すら「病」と定義することによって患者さんは増加します。

「異常」のフィルターの網目をどんどん細かくしていけば,そこに補足される人は増えていき,治療の対象となり,製薬会社の売上に貢献することになります。

私が大学に行かせてもらっていた当時はDSM-Ⅲでしたが,それがDSM-Ⅴになっており,「障害」とされる数は飛躍的に増えています。
これは何を物語るかというと,「正常の範囲」がどんどん狭くなっていることを意味します。

もう誰も正常とは何かがわからないままに「異常」にだけ注意を払うように仕向けられます。
それを使って医師が診断し始めると,必然的に患者さんは増加し,製薬会社への需要は高まります。

それが社会の仕組みとして構造的に出来上がっているとすれば,これはとてつもない問題です。
しかし,大手のメディアはそんなことを書きません。

むしろ,どんどん新しい病を我々の頭に注入してくれます。
現在ほど報道する側がその責任を負わなくなってきている時代はないと思います。

そして,今までは「気分のむら」と思っていたのが「双極性障害」という病になり,あなたは治療対象に組み込まれます。
下手をすれば,あなたは生涯薬を飲み続けなければならない事態に追い込まれます。

当事者は精一杯やっておられるに違いないが,その様な仕組みがわからないと,知らず知らず「善意の罪」を犯しているかも知れません。

マーケティング方法は極めて巧妙になってきており,ステルス化しているために我々が容易に気づけないようになってきています。
それだけに,ネットなどの情報に簡単に取り込まれないように自分自身を防衛しなければなりません。

「健全」に生存しようと思えば,今ほど情報の取捨選択と咀嚼するスキルを問われている時代はないと私は思います。
そして,物事を体系的に考えていこうとすれば,一昔前のように書物にあたることが必要ではないでしょうか。

スポンサーリンク
[amazonjs asin="4314011033" locale="JP" title="クレイジー・ライク・アメリカ: 心の病はいかに輸出されたか"]

336px




336px




-健康のこと
-, , , , , , , ,

Copyright© オヤジの備忘録 , 2024 All Rights Reserved Powered by STINGER.