森友学園問題 5

更新日:

森友学園問題も法人側の取り下げで開校問題は収束していくかに見えます。
各新聞の電子版も急速に記事数が減っています。

前回までは,主に行政手続きなどの実務面の問題を検証してきたが,今回は,この騒動に名前が挙がった「人」に焦点を当ててみます。
マスコミの次なる焦点は,果たして「政治家の関与はなかったのか」ということになろうかと考えられるが,「政治家」,「政党」をキーワードとすると,根底に横たわるものを見逃してしまいます。

<主な登場人物>
1.安倍 晋三 首相
2.安倍 昭恵 首相夫人
3.籠池 泰典 学校法人「森友学園」理事長
4.鴻池 祥肇 参議院議員
5.稲田 朋美 防衛大臣
6.中川 隆弘 大阪府議(大阪維新の会)
7.黒川 治 兵庫県議会議員
8.松井 一郎 大阪府知事(大阪維新の会代表)

<団体>
1.日本会議
2.日本会議国会議員懇談会
3.神道政治連盟国会議員懇談会
4.みんなで靖国神社に参拝する国会議員の会
5.日本青年協議会

唐突であるが,下記の質問に答えてみて下さい。

質問:日本国憲法について,下記の中からあなたに最もよく当てはまるものを選んで下さい。

1.護憲
2.改憲
3.反憲

さて,あなたは上記の中でどれを選択されますか。
アンケートなどでは,「どちらでもない」とか「分からない」という選択肢が設けられていますが,あなたが日本国民であるならば,前述の選択はあり得ないので,敢えて設けませんでした。
上記の中で意味不明なのが3の「反憲」でしょう。
これは,現行の憲法そのものを否定する姿勢を示します。

もうお分かりでしょう。
森友劇場に登場してきた人物に共通するキーワードは「改憲」です。
私は,「森友学園問題1」に上記の人物と団体を掲載しましたが,敢えてそれについては言及しませんでした。
ここでそれを考えてみたいと思います。

小学校開校問題が「表玄関」とすれば,「改憲」は裏口といっていいでしょう。
さて,裏口から入ると,どのような世界が垣間見えるでしょうか。

「もはや戦後ではない」

この言葉は,昭和31年度(1956年度)の経済白書の副題として使用されたものです。
私は,これを日本は昭和20年(1945年)の敗戦から10年が経過し,戦後の混乱期も治まりつつあり,経済も右肩上がりの様相を見せ始めた日本の状況を表現していると解釈していました(別の解釈は朝日新聞)。
しかし,これを別の視点から見ると,歴史的な「戦後」の見直しの始まりとも解釈できます。

日本国憲法は,世界に冠たる「平和憲法」という見方もあれば,「米国が日本におしつけたもの」という見方もあります。
現在は,どちらが優勢だろうか。恐らく後者ではないか。

安倍政権も自民党も維新も「改憲」を旗印にしています。
上記の人物は,「改憲」を支持する方々です。

私は,特段「改憲」の姿勢を持っていることを批判するつもりはありません。
問題は,その方向と内容です。

この騒動でよく出てきた言葉に「教育勅語」があります。
若い人達は,「教育勅語って何だ」と思われたことでしょう。
参考のために,原文と現代語訳を掲載します。

Fig.1 原文

Fig.2 現代語訳

実際,籠池理事長は元より,マスコミに登場する方々の中には「教育勅語」を肯定する方もおられます。
稲田 朋美大臣ですら国会で答弁しています(国会で答弁するのは如何なものかと思いますが)。

文部科学省のウェブサイトの「明治憲法と教育勅語」の中から一部抜粋してみます。

「明治二十年代の初めに確立されたわが国独自の近代国家体制は,政治の面では大日本帝国憲法によってその基礎が置かれた。
他方,国民道徳の面からこの体制の支柱として位置づけられるのが「教育に関する勅語」(教育勅語)である。
教育勅語は元田永孚の起草になる明治十二年の教学聖旨の思想の流れをくむものであるが,同時に伊藤博文や井上毅などの開明的近代国家観にもささえられ,両者の結合の上に成立したものといえよう。
また日本軍隊の創設者であり,軍人勅諭の発案者でもあるといわれる山県有朋が内閣総理大臣として参画したことも注目すべきである。
教育勅語が発布されると,やがて国民道徳および国民教育の基本とされ,国家の精神的支柱として重大な役割を果たすこととなった。」

これが,教育勅語の成立の背景です(教育勅語は,1948年6月19日に,衆議院では排除,参議院では失効が確認されています)。
内容をみてみると,確かにいいことが書いてあります。
現代に通じることもあります。
しかし,この中で,私に抵抗心を起こさせるのは以下の下りです。

「そしてもし危急の事態が生じたら,(中略) 永遠に続く皇室の運命を助けるようにしなさい」

私達は,「危急の際,皇室の運命を助ける行動をしなければならない」と私(天皇)は述べているのです。
第2次世界大戦の時,欧州ではパルチザンレジスタンスが組織され,ナチスドイツと戦いました。
これは,自分の国家を守るために,自らが志願したもので,国家に命令されたわけではありません。

しかし,教育勅語では,私(天皇)が,「皇室の運命を助ける行動をせよ」と言っています。
あなたは,これに従うでしょうか。
私には,抵抗があります。
国家を守るためには,必要とあらば戦うことも辞さないが,その目的が「皇室の運命を助ける」ことにあるとなれば,少し違います。

私の中では,
国家=天皇
ではありません。

北朝鮮がことある毎にミサイルを発射している状況にあって,国防を真剣に議論しなければならないのは理解できます。
ここで問題となってくるのが憲法第9条です。

「第二章 戦争の放棄
第九条 日本国民は,正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し,国権の発動たる戦争と,武力による威嚇又は武力の行使は,国際紛争を解決する手段としては,永久にこれを放棄する。
○2 前項の目的を達するため,陸海空軍その他の戦力は,これを保持しない。国の交戦権は,これを認めない。」

国防のためには戦闘も必要になってきます。
その際,第9条が足枷になっています。
「改憲派」は,これを何としても変更したい。

私個人としては,戦闘(戦争ではない)も必要であれば,改憲もやむなしと思っています。
現実的にいえば,戦闘の可能な状態の国にしておく必要があるのは理解できないわけではありません。

私が問題だと思うのは,「改憲派」の方々からは,「誰のために」ということが一切語られないことです。
しかし,問わず語りに,教育勅語の肯定がそれを示してくれています。
私(天皇)の為に戦うのです。

であるから,専ら,「現行憲法は,戦後アメリカに押しつけられたものだから,日本国民が自ら制定する必要がある」という論法を使います。

上記の方々に共通しているのが,以上のような考え方であり,それを強力に推進しようとしているのが「日本会議」や「日本会議国会議員懇談会」などの団体です。
即ち,「改憲」が底流にあり,それに賛同する方々が所属している団体が上記なのです。
従って,冒頭にも記したように,政党や国会議員などの括(くく)りで見てしまうと,本当の姿は見えてきません。
私も,恥ずかしながら,森友学園問題があるまでは,その存在を知りませんでした。

学校法人森友学園が計画した瑞穂の國記念小學院の設置は,日本初の神道教育を行う小学校としてのモデルケースとしようとしたのではないかと思っています。
「幼稚園で折角教育勅語を暗記しても,小学校へ行ってしまえばそれも消えてしまう。」と阿倍 昭恵夫人も発言し,だからこそ瑞穂の國記念小學院の設置には意味があると述べています。

私も,小学校に行く前には,母親が仏壇で唱えるお経を諳(そら)んじることが出来ました。
しかし,小学校に入ってしばらくすると全く忘れてしまいました。
こうなってしまうから,継続的に教育するために小学校の設置を考えたのです。

学校法人森友学園が認可申請を取り下げたのは,これ以上「日本会議」等の名前が国民に取りざたされるのを防ごうとした目的があったのではないかと思います。
現在まで水面下で深く静かに潜行してきたのに,ここで国民にその内実を探られて,反対されれば,今までやって来たことが水泡に帰してしまいます。
それ故の撤退ではなかったのか。

次に,天皇陛下の生前退位発言を考えてみたい。
何故,これを持ち出したかというと,既に検証したように,上記団体のテーゼと深く関連するからです。
陛下のお言葉の中で,私が注目するのは下記のお言葉です。

「始めにも述べましたように,憲法の下,天皇は国政に関する権能を有しません。
そうした中で,このたび我が国の長い天皇の歴史を改めて振り返りつつ,これからも皇室がどのような時にも国民と共にあり,相たずさえてこの国の未来を築いていけるよう,そして象徴天皇の務めが常に途切れることなく,安定的に続いていくことをひとえに念じ,ここに私の気持ちをお話しいたしました。」

これは,末尾の締め括りの内容ですが,天皇陛下のご意思が全て凝縮されているのではないだろうか。

現行「憲法」の下では,
1.天皇は国政に関する機能を有しない
2.「象徴」としての天皇の務め
が常に途切れることなく,安定的に続いていく

全文の解釈をせず,一部だけを取り上げて論評するのは危険かも知れませんが,私は,この2つをもってしてもわかるように,天皇陛下は現行憲法を擁護されていると思います。

とするならば,「改憲」を目的とする方々には極めて不都合です。
であるから,「天皇はちょっとおかしい」との発言も出てきます。

私は,天皇陛下のお言葉は,高齢になられて,今までのように広く公務を行うことが難しくなったとのご主旨もあるだろうが,それよりも,憲法に言及することにより,改憲ムードが段々と強まっている風潮に一石を投じたかったのではないかと思います。

私には,お言葉の全文を何度読み返しても,そのように読めてしまいます。
所詮,個人的見解などというものは,いくら正論だとか言っても,究極的には偏見にすぎないと思っています。
ただ,同じ偏見を持つ者の数が多いから,「世論」と言っているだけです。

最後に,私は,どちらかといえば,改憲を考える方々に対して批判的な論調を展開してきましたが,反面,方向性や内容を脇に置けば,日本という国を真剣に考える姿勢は見習わなくてはならないと思います。
どの国家観だけが正しいのかではなく,現代という時代を見据えた国家観の再構築の必要性はあると考えるし,その為の議論を民主的に行う時期に来ているのではないでしょうか。

今回の事件が,我々に上記のような姿勢をもたらしてくれるならば,それは意味のあることと言えるかも知れません。

参照:日本会議について 1
参照:日本会議について 2

(参考)
(0)日本国憲法:全文
(1)明治神宮:教育勅語
(2)文部科学省:明治憲法と教育勅語
(3)軍人勅諭:現代語訳
(4)教育基本法:全文
(5)毎日新聞:府が本格調査 契約書虚偽で立ち入り検査も視野
(6)朝日新聞:森友の校舎どうなる 土地買い戻す方針の国 撤去要求へ
(7)産経新聞:急転直下の申請取り下げ 保護者も衝撃「説明ない」
(8)産経新聞:申請取り下げの「森友小」建設工事・ごみ撤去を中断
(9)SPUTNIK:日本野党 教育勅語是認の稲田防衛相を非難

336px




336px




-森友学園問題
-, , , , , , , , , , ,

Copyright© オヤジの備忘録 , 2024 All Rights Reserved Powered by STINGER.